雷龍の伝説
序章 — 嵐の夜明け
遥か昔、まだ山々が言葉を持っていた時代、頂上から頂上へと渡る雷の道があった。その道を守る存在が、雷龍・迅霆(じんてい)であった。
迅霆は三千年の歳月をかけて自らの鱗を研ぎ澄まし、一枚一枚が鍛冶師の槌のように光を放っていた。彼の咆哮は嵐を呼び、その翼ばたきは稲妻を生んだ。空が割れ、大地が震えるとき、それは迅霆が目覚めた証であった。
雷の道は七つの山脈を貫き、雲の上から雲の下まで、天地をつなぐ光の回廊であった。この道を誰かが侵せば、迅霆は容赦なく雷の裁きを下した。しかし、その孤独な守護の中で、迅霆はある夜、下界に一つの炎を見た。
「雷は恐れるものではない。雷は対話である。」
— 迅霆の咆哮を翻訳した古代の詩人第一章 — 鍛冶師との約束
山麓の村に、孤独な鍛冶師・雷吉(らいきち)が住んでいた。彼は代々続く鍛冶一族の最後の一人で、他の者が恐れた嵐の夜も、黙々と槌を振るい続けた。
ある嵐の夜、迅霆は雷吉の鍛冶場の炎を見た。その炎は嵐の中でも消えることなく、まるで雷そのものが宿っているかのように輝いていた。稲妻が幾度も落ちても、炎は揺れるだけで消えなかった。迅霆は不思議に思い、翼を折りたたみ、雷吉の鍛冶場へと降り立った。
鍛冶場の扉が嵐に揺れる中、雷吉は振り返ることもなく槌を振るい続けた。迅霆の巨大な影が落ちても、彼の手は止まらなかった。その姿に、迅霆は三千年の孤独の中で初めて、畏敬以外の感情を覚えた。
第二章 — 雷の鋼
「汝は何故、恐れない?」迅霆は問うた。その声は雷鳴よりも深く、山の奥底から響くようであった。雷吉はようやく手を止め、龍の目を正面から見据えた。
「恐れるものは嵐だけではない。己の弱さこそが最も恐ろしい」と雷吉は答えた。「嵐が来れば炎はより激しく燃える。恐れていたら、この炎は消えていた」
二者の間に奇妙な友情が芽生えた。迅霆は毎夜嵐を連れて来るようになり、雷吉はその嵐の中で鍛冶を続けた。やがて迅霆は自らの鱗を一枚差し出し、それを素材として最高の剣を打つよう命じた。この剣こそが、後に「孤雷の刃」と呼ばれる伝説の武器となった。
鱗は普通の金属とは異なり、炉の中でも光を失わなかった。雷吉は七七四十九日の間、眠ることなく鍛え続けた。槌が下りるたびに稲妻が走り、鍛冶場全体が空の光に包まれた。村人たちは遠くからその光を見て、神が降りたと噂した。
終章 — 永遠の咆哮
完成した刃は、触れる者に迅霆の咆哮を聞かせた。嵐の夜、その剣が抜かれると空に稲妻が走り、龍の影が現れるという。刃の表面には迅霆の鱗の模様が浮かび上がり、嵐の夜にはそれが青白く輝いた。
雷吉はその刃を「孤雷」と名付け、山の祠に奉納した。それ以来、その山には嵐が来るたびに美しい稲妻が走り、村を守るようになったという。
今もなお、山の頂では雷が轟く。それは迅霆が、人間との約束を忘れていない証である。嵐の夜に耳を澄ませば、雷の中に龍の声を聞くことができるだろう。そしてShadow Aurora Threadの職人たちは、今もその声を聞きながら槌を振るっている。